第3回大会(2004.6.19)
〜“エイジレス社会の実現をめざして”〜
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少子高齢化とデフレが手を携えてやってきた今日、私たちは子育て環境の悪化と年金制度に強い危機感を抱きます。
子どもは未来からの大切な預かりものです。未来を担う子どもたちの幸福を願って次世代育成のための新しい支援システムの創設を考え、提唱します。若者世代が抱く年金制度への不信感を取り除き、将来に亘って持続可能な年金制度を構築するために、思い切ってラディカルな変革を行うことが必要です。年金改革を一緒に考えましょう。
□と き : 2004年6月19日(土)
□ところ : 早稲田大学・大隈小講堂 (東京都新宿区・早稲田大学構内正門前)
◆第3回研究発表大会 11:00〜17:00
(1)「次世代育成支援に関する要望と提言」報告と トーク 11:10〜12:10
世代間連帯へ小さな一歩・大きな願い 〜〜次世代育成支援研究会から
報 告 者 : 沖藤 典子 氏 (ノンフィクション作家・当学会理事)
「厚生労働省/雇用均等・児童家庭局 前局長 岩田喜美枝氏(資生堂常勤顧問) との対談」
(2)「年金問題を考える」シンポジウム 13:10〜15:20
“どうなる年金・どうする年金!” ・・・・マスコミが採点する年金改革
コーディネーター: 袖井 孝子 氏
(お茶の水女子大学客員教授・当学会副会長)
パ ネ リ ス ト :
稲葉 康生 氏 (毎日新聞・論説委員)
岩淵 勝好 氏 (川崎医療福祉大学教授・前産経新聞論説委員)
榊原 智子 氏 (読売新聞・解説部)
松浦 新 氏 (週刊朝日・編集部)
渡辺 俊介 氏 (日本経済新聞・論説委員)
(3)会員による研究・事例発表 15:30〜17:00
次の6会員(五十音順)が発表します。
石塚 光政氏(土浦市) 佐藤 純子氏(流山市) 高田 佳子氏(東京都)
多湖 光宗氏(桑名市) 間野 百子氏(東京都) 山崎 晃 氏(仙台市)
◆懇親パーティ 17:10〜18:30
会場:大隈ガーデンハウス(大隈講堂ウラ) 会費:3000円
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<第3回大会概要報告>
1.「世代間連帯へ小さな一歩−大きな願い」
(次世代支援に関するトークショウ)
沖藤典子氏(学会理事・次世代育成支援研究会座長)と岩田喜美枝氏(厚労省前局長・且草カ堂顧問)の対談が約1時間行なわれ、3月に関係閣僚に提出した『「次世代育成支援」に関する要望と提言』の話題を端緒に「1.29ショック」がホットな少子化への問題解決に向けて示唆に富む対談が繰り広げられ、満場の聴衆に充実した感銘を与えたことでした。
<岩田氏・沖藤氏対談の概要>
☆『当学会が提出した提言書について』:次世代育成対策支援法が来年4月から施行される。それまでに自治体、各企業が次世代育成支援のための行動計画を検討・作成する時期に入っており、政治的にも行政上のスケジュールからも、大変良いタイミングで提出されたと思う。また、参院選も年金がテーマではあるが、少子化も大きな争点となるので、一石を投じたとも言える。
☆『女性への生き方支援、仕事と子育ての両立支援についての企業の戸惑いとは』:企業が自発的に取り組もうという気にならない。企業経営上必要という考えを持たず、また国の一方的な考えとして受けとめ自分の問題として考えていない。しかし両立支援は、企業の人材戦略として優秀な人材を失わないというメリットがある。育児休業などはコストのかからない投資である。
☆『男性の育児休暇取得について』:取得率0.33%というが、働き盛りの30代の意識は大きく変わってきている。子育て中の父親への意識調査の結果でも、「仕事と子育て両立」「家庭中心」が全体の2/3を占め、30代の男性は意識と現実のなかで葛藤している。
☆『休業保障40%は他国に比べ低いのではないのか』:休業中は社会保険の本人負担が免除されるので実質50数%になる。失業者の最低補償は60%だから、これを上回る事は不可能であり、雇用保険の枠組みの中で考えるとこれ以上は無理。当学会が提言した、新しいシステム(<注>たとえば「(仮称)子育て連帯基金」)の中で新しい財源が確保出来れば40%を越える事も可能ではないか。
☆『新システム創設のきっかけは、自営業には育児休暇がない、また親の職業によって児童手当も違う。子どもの視点に立って平等であるべき、ではないか』:今回の提言書にある、最初に“子どもは未来からの大切な預かりものです”に始まり、 “次世代育成支援こそが、未来の国づくりを目指す「米百俵」の精神です”で結んだ3つの提言は全て骨太であり、最も骨太は「新システムの創設」であり、是非実現させて欲しい。本当に今議論を始める絶好のチャンスである。
☆『子どもの声を誰が代弁するか、サービスの一元化は』:今、子育て支援対策は、1部は国、大半は地方自治体でやっているが、サービスについては市町村から声が挙がらないと動かない。市町村からの声が「フォーカルポイント」なる。したがって子どもの代弁を市町村からの声をいかに大きく出していくかが鍵。「介護保険」も当初は夢のように言われたが、3年でできたことを思い出して欲しい。
☆『0〜3才児までの9割が在宅保育で、母親への負担の軽減について』:仕事を持っている母親は、回りの人々と会話が出来るが、専業主婦には子育ての不安と負担がのしかかり、その負担感が大変大きく孤立しがちである。過去には母親一人が家に孤立して子育てをすることはなかった。多世代共生が大事であり、シニア社会学会の強みを活かせるテーマである。地域で祖父母世代と孫世代が接点をもてる施設を作ることなど地域的支援の仕組みを作る必要がある。
☆『今後の当学会の活動の中での留意していく点は何か』:仕事と子育ての両立は、社員にとっても会社にとっても大事である。また、企業が市場の変化に対応していくには、多様な人材が必要である。会社人間といわれ同じ価値観は持つ人が何人集まっても新しいものは生まれない。これからは多様な価値観を持った人々(男女・子育て・外国人・中途採用など)をいかに多く持つかが企業にとって大切。キャリアにとって子育てはマイナスではなく、子育てで親も育つ。また、子育てを通して地域社会とのつながりが出来、本人にとってもロスはない。子育てだけを議論するのではなく、ワークバランスとして、仕事とそれ以外の生活のバランスをはかるような働き方が大事である。ワークバランスの重要性、子育ての重要性を既に経験されているシニア社会学会の諸兄姉、特に男性から発言していただく事が、企業に対して説得力があり、少子化社会の危機的状況、その中にあっての企業のあり方、働き方を学会として社会に発信していって欲しい。(武者・記)
2.シンポジウム「どうなる年金・どうする年金」
〜マスコミが採点する年金改革
袖井副会長のコーデイネターで、毎日・産経・読売・朝日・日経(以上、発言順)各紙メイン担当ジャーナリストをパネリストとして迎え、忌憚のない見解が展開されました。
設問1 袖井氏 今回の政府提案の年金改革案は、10点満点で何点か。
稲葉康生氏・毎日新聞論説委員 点数はつけられない。理由は、年金制度・政治に対する国民の信頼を失わせたこと。@政治家の年金保険料未納問題A合計特殊出生率1.29の法案成立後発表B保険料固定で給付の5割維持は無理C第3号被保険者・パートタイマーの年金問題の先送りD社会保険庁の年金積立金の流用問題E野党の三党合意の不手際。
岩淵勝好氏・前産経新聞論説委員 削られながらも法案をまとめた審議会・行政は5点。与党・野党は零点。三党合意をひっくり返した民主党は−5点。改革案の方向・考察・解説のなかったマスコミも−5点。つまり現在の給付>負担の図式が逆転する団塊の世代が年金世代になる時期が問題。抜本改革には10年を要する。それまで問題を放置できない。
榊原智子氏・読売新聞解説部記者 3点。3年近く議論してギリギリの線。問題を放置するよりは良い。一応給付減・負担増の問題も入っている。ただし若い世代の信頼回復・世代間不公平の問題にまで踏み込んでいない。保険料未納問題も世代間対話のきっかけとなる意味はあった。次世代育成を真剣に考えることなしに年金制度の将来はない。
松浦 新氏・週刊朝日編集部 5点+α。10年で2割、20年で4割給付を減らす内容。すぐ給付2割カットならば満点。少子化以前にすでに厚生年金は赤字。厚生年金及び基金加入者は減り、国民年金は空洞化。国をあてにしない考えが広まったほう
が良い。
渡辺俊介氏・日本経済新聞論説委員 3点位。プラス面@基礎年金国庫負担1/2への道筋A厚生年金及び基金の保険料凍結解除B在職老齢年金の改善C障害基礎年金と老齢基礎年金の併給承認D育児休業中の保険料免除等。審議会の一致した意見は、保険料固定・給付自動調整で少子化対策・雇用延長・経済成長に努力すること。給付と負担の双方固定は論外。
設問2 袖井氏 それでは、今どうすべきなのか。短期的・長期的に分けて考えるとどうなるか。
稲葉氏 現行の案は公明党案で参院選がらみの政治的なもの。政党のワクをこえて与野党全党での協議が不可欠。長期的には、すべての年金の一元化=所得比例年金。
岩淵氏 短期的には、政府で案をまとめる。年金は厚労省、国税は財務省といったナワバリを廃する。中期的には納税者番号制度の導入での所得捕捉率不公平の解消・消費税率アップ。長期的には、与野党全党での討議による年金の一元化。
渡辺氏 負担増なくして年金の改革なし。消費税率アップは避けられない。短期・長期は別にして3点しかない。@保険料固定・給付自動調整の改良版A基礎年金の国庫負担方式B保険料強制徴収による所得比例年金。
設問3 袖井氏 最後にメディアとして、今後年金問題を国民にどう伝えてゆきたいか。
渡辺氏 厚生年金は現在450兆円の未積立債務がある。解決策は給付を下げるか、負担を保険料・税金で上げるしかない。出生率・雇用が増えれば当然この負担は減る。スェーデンは、人口800万人余、徹底した地方分権、国民総背番号制、消費税25%、国民全部が確定申告をするという国柄である。
松浦氏 高福祉なら高負担、低負担であれば自助努力になる。社会保障制度を含めてどういう国にしたいのか、国民のコンセンサスの問題。マスコミはそれを伝える役割。
榊原氏 現行の国民皆保険を維持するのか。すでに二十代では破綻している。現在の受給世代またその家族も年金の有難さについて話合いがない。社会の安定・活気に貢献している面も大きい。改革はドラスティックにやらないと効果がない。
岩淵氏 2000年には受給世代1人を3.6人の負担世代が支えている。2025年には、1.9人で1人と約倍になる。この給付と負担のバランスからいって現行の制度は持続できない。次世代育成に力をそそいで人口構成を好転させるか、団塊の世代が受給減
の痛みに耐えられるかという問題。
稲葉氏 何人で1人の受給世代を支えるか。働ける人は65歳、70歳まで働くということになれば景色は変わる。マスコミの対応は、具体案・代替案を出す能力はないので、いたずらに不信を増幅するのではなく、出された案に対する客観的な判断材料を提供するということではないか。 (大島記)
3.会員による研究・事例発表(以下50音順)
◆石塚 光政氏(文京大学大学院経営学科・土浦市)
「女性の起業と事業活動に関する一考察」
多くの女性経営者の属性に迫ってその全体像から実態を把握することは、これから開業する女性たちに役立つと考え研究を始めた。彼女たちが近年注目されるのは、これまで潜在能力を発揮する機会がなかった女性への期待が高まってきているからだ。現在新規開業の13〜15%を占める女性経営者は、さまざまな分野で男性と異なる価値観の担い手として活躍している。(その特徴をアンケート調査結果で、開業動機・事業の選定理由・開業資金等の角度から説明)
男性経営者と同等なキャリアを積んできた女性経営者は、業績も良く、事業拡大意欲も強い。男性とは異なる視点でこれまでになかった事業展開をしてゆく社会的意義は大きい。
◆佐藤 純子氏(麗澤大学大学院国際経済研究科・流山市)
「高齢社会における企業の高齢者雇用の必然性とその役割および成功要因」
父親が当時の55歳定年で退職し、見る間に元気をなくしていった経験から高齢者雇用を真剣に考えはじめた。元気なうちは「年齢に関係なく」働きたいという人が3割を超えるほどわが国の高齢者は就業意欲が高い。(人材派遣会社へのアンケート調査結果を説明)今後とも高齢社会では少子化による労働力不足だけではなく、高齢者が本来もっている豊富な体験や人脈、仕事の丁寧さを含む高い技能などが「高齢者雇用」を開発してゆく。「高齢者雇用開発コンテスト」での受賞企業の成功要因をみると、高齢者自身の意識改革が重要である。以前に勤めていた企業での体験・意識を払拭すること、さらに若い年齢層の社員と協調する意識などが求められている。
◆高田 佳子氏(桜美林大学 加齢・発達研究所・文京区)
「イベントの社会的意義と高齢社会を元気にするイベントのあり方」
イベントは社会の活性化に役立つ、と考えてこれまで仕事をしてきた。高齢者への興味とイベント・マネジメントへの関心の双方から、桜美林大学大学院社会人コースの一期生にエントリーし、老年学をテーマにした修士論文が今回のお話のベースにある。日本ではこれまで、国体・植樹祭あるいは東京オリンピックや大阪万博といったイベントが、国際人としての自覚を促し、世界へ発信する活性化装置として活用されてきた。それから約40年、現在の高齢社会では高齢者の役割が乏しい。高齢者は介護の対象者、もしくは富裕な消費者という貧困なイメージに押し込まれていて、本来のパワーが発揮されていない。イベントを現代の日本を変えてゆく力として活用しなければならない。
◆多胡 光宗氏(ウエルネス医療クリニック・桑名市)
「痴呆性高齢者の残存能力改善計画について」
学童保育と高齢者デイケアの双方に取り組むための施設を合築し、8年以上にわたってお世話をしてきている。お年寄りと子どもたちがただ一緒にいるだけでは駄目で、やはりそこには仕掛けがいる。高齢者のなかには、たとえば野菜づくりが得意とか、いろいろな経験の持ち主がいるので、子どもの教育・しつけに良い影響を与えることができる。悪いことをすると他人の子でも厳しく叱る。叱ると高齢者でも元気が出る。叱るだけでなく、その後を見守る。できると褒める。痴呆になってもこういうことができるのである。あるいは、子どもと遊ぶ、たとえば将棋を指す。シニアと子どもの双方に利点をもたらすには、計画的に交流する、仕掛けをする、それを3ヶ月以上つづけることが有効である。
◆間野 百子氏(東京大学大学院・豊島区)
「高齢者の社会参加活動を促進するプログラム」
―米国の世代間プログラムを通じての考察−
この学会が標榜しているエイジレス社会・老若共同参画社会等を具現化してゆく上で、アメリカの「世代間プログラム(以下IPと略す)」は研究面だけではなく実践面でも体系化されて参考になる。IPの定義は論者によって異なるが、1999年に「国際世代間プログラム協会」(ICCP)はIPを「高齢者と青少年の間で互いの能力や知識を意図的・継続的に交換しあう社会的媒体」と定義した。また、この問題の第一人者であるサニー・ニューマンはIPの歴史的展開を、政府主導型で青少年と高齢者の交流プログラムが創出された第1期と、多くの団体が関与してプログラムの内容が多様化してゆく第2期とに分けている。本学会では、高齢者が青少年に積極的なモデルを示す役割を期待したい。
◆山崎 晃氏(東北シニアライフアドバイザー協会・仙台市)
「Gerontologyってナニ?」
ジェロントロジーについては、8年まえに南カリフォルニア大学の教授から直接説明を受けて感銘を受けた。ジェロントロジーそのものが、私ども協会のコア的な活動テーマでもある。マリー・テレサはかつて「世界に貧しい国がある。それはアメリカと日本だ」といったことがある。その精神的貧しさを指摘したものだ。今の日本は青少年問題にしても、高齢者福祉にしても、はっきりした目的のない不安定さが蔓延している。これまで、人の働く上での能力は加齢によって落ちないことが実証されており、「長寿社会の人間学」は、私たちに与えられた至上命題だ。私どもの電話相談でも、最近は心の問題の比重が大きくなっており、一般論から個別の問題領域へと変化しつつある。 (守永記)
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