JAAS News第85号をお届けします
シニア社会学会・事務局:2006.12.22.
<事務局からのお知らせ> 電子メールにより配信している会員の方へ
第84号でもご連絡いたしましたが、来年1月からJAAS Newsを読みやすくするため「添付ファイル」メールにてお送りすることになりましたのでよろしくお願いいたします。
会員の皆様には、本年も会の諸活動にご支援ご協力いただき有難うございました。来年もよろしくお願いいたします。事務所は1月10日からオープンいたします。
------ 目次 ------ 1.2006年10月28日(土)シニア社会塾シリーズ第5回報告 2.2006年11月25日(土)シニア社会塾シリーズ第6回報告 3.昭和女子大学オープンカレッジの第一部報告
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1.シニア社会塾シリーズ第5回「新しい福祉社会の創造”をめざすワーカーズコープの挑戦」報告
10月28日(土)、田中羊子氏(日本労働者協同組合連合会/センター事業団 専務理事)を講師として、みなとNPOハウスで開催され、「新しい働き方」を目指す実践的な活動の紹介と報告。今風に言えば、“ビジネスモデル”の提案。報告の要旨は以下の通り。
◆「協同労働」の協同組合(ワーカーズコープ)とは。
従来の企業に雇われる「雇用」という働き方は、「生産(提供)」と「市場(ユーザー)」が対立項のような図式となり、お互いの関係が一方通行になりがち。雇用環境も企業の都合が優先してしまう。
働く満足度を高めるために生産と市場の対立を融合させたいという思いを前提に“新しい働き方”を模索。(労働者の主体化)その結果、「協同組合」という形を取り「労働」「出資」「経営」を一体化させたモデルを構築し、働く者同士の協同を具現化。仕事自体も単なる生産でなく社会に役立つ仕事を起こして事業化し、社会(地域)にも理解される「共感の経営」をめざすものとした。
◆スタート以来すでに20年を経過したが、スタート時には理念と実態にギャップがあり、事業の実態はいわゆる清掃作業のみであり従来の“請負業”と何ら変わりがなかった。その後、病院の清掃作業の現場での諸問題(針刺し事故など)に直面し病院側との情報交換が行われるようになり、単なる請負から共同作業者という位置づけになった。
このことは作業者にとっても主体性を確認出来るものであり、モチベーション向上が得られた。このことを契機に現場での「体験〜実態理解」を梃子にして問題の共通理解を具体化する「行動」に繋げる過程が生まれ、業務範囲の拡大や開発が進んだ。
◆1995年、新事業体として「高齢者協同組合」を立ち上げた。このコンセプトは、「働くこと」と「生きること」の融合であり、弱者として外部に頼るだけでなく「仕事・生きがい・福祉」も高齢者自身で、ということ(=高齢者は弱者ではない)。働くことを止めたときには気持ちの弱体化が起こりやすく、“やる気”のある高齢者の居場所がない、というのが実態であり、高齢者を主人公にしようという前提でスタートした。
◇協同労働という新しいビジネススタイルを目指してスタートしたが、紆余曲折の結果、軌道に乗ってきたとの報告でした。メインの報告はもとより、質疑応答も予定時間だけでは足りない充実の社会塾となった。 (鈴木記)
2.シニア社会塾シリーズ第6回「年金の将来〜世代間の対立を超えて〜」報告
11月25日(土)袖井孝子氏(お茶の水女子大学名誉教授・当学会副会長)を講師として、みなとNPOハウスで開催された。講演要旨は以下の通り。
○世論調査などでは、常に国民の関心の第1位を占める年金制度だが、講演・年金本の売れ行きなどではまったく人気がないパラドックスがある。これは、制度が一元化されず、しかもたびたびの改正で、日付が1日違っただけで年金額が変わるような複雑怪奇なまったく分かりにくい制度になっているせいである。厚労省の年金官僚は、それだけで、一生食いっぱぐれがないといわれている。 1)年金制度見直しの必要性
@財政破綻・少子化の進行による支え手の減少に加えて、社会保険料徴収率の低下
A夫は40年間同一の職場で働き、妻は生涯専業主婦、離婚なしというモデルが基本になっており、単身者が増え、妻が働き、転職、非正規雇用が日常化している現実にまったく合わないものになっている。
B04年の改正で合計特殊出生率を1.39にする(03年で1.28)など、見通しが狂っている。 2)年金の意味と不公平感
@6割の高齢者が、年金収入だけで生活しているなど、その社会的意味は大きい。
A若者の年金不信、男女・有業主婦と専業主婦・有配偶者と無配偶者間の不公平感 3)04年改正の内容 @社会保険方式の維持 A国庫負担の3分の1から2分の1への段階的引き上げ B保険料固定方式:厚生年金18.3%、国民年金16,900円で固定
C給付を人口構造・景気変動に合わせて調整する「マクロ経済スライド方式」を採用
D離婚時の年金分割:08年以降、第三号期間の年金を自動的に半分に分割 E育児期間中の社会保険料免除:育児休業期間を1年から3年へ延長
F在職老齢年金の見直し (先送りされたもの)○短時間労働者への厚生年金の適用・第三号被保険者制度の廃止
(大島記)
3. 昭和女子大学のオープンカレッジ(生涯学習講座)の第一部5講座の報告
第一部「高齢化社会をどう生きる」が10月〜11月に5講座行われましたので報告します。第二部「美しさを求めて」については、次号以降にて報告します。 講座名:「美しく」「かっこよく」歳を重ねるということ 主催:シニア社会学会・資生堂・昭和女子大学 場所:昭和女子大学ホール・会議室
@10月12日「若者と共に生きる社会とサクセスフルな歳の重ね方を求めて」
講師:坂東 真理子 昭和女子大学副学長、シニア社会学会理事
本講座開講にあたって昭和女子大学副学長、およびシニア社会学会理事としてのご挨拶があった。若者と共に生きる社会を作るために、大学、企業いずれも社会の中で孤立した存在でなく、社会的市民としての役割がある。講座の前半では、5つの社会的切り口からどう高齢化社会を生きるかの視点を語り、後半は、生体側から美しくなるための実際的な知識を紹介する。高齢社会と少子化の問題について、歴史的背景、法制度の話題も網羅しながら、いかにシニアとして社会を担っていくかのお話があった。シニアは若者のメンターとなれる。サクセスフルエイジングのキーポイントは、経済面だけでなく、生活面、身体面、精神面の自立にある。 (伊東記)
A10月19日『望ましき老若共同参画社会を実現するために〜「大人の壁」とは〜』
講師:濱口 晴彦氏 早稲田大学名誉教授、創造学園大学教授、シニア社会学会理事運営委員長
大人になることは、例えばビールの味をいつ旨いと感じるか、ということでもある。アサヒビールの調査によれば、年齢では平均23.7歳であり、社会にでて、仕事をやり遂げたときに飲むビールを旨いと感じるそうだ。
いまある「ヒト」は38億年という命のバトンタッチの結果であり、あの過酷な太平洋戦争をたくましく生き抜いた「ひと」であり、人の間を上手に生きてきた「人間」である。大人とは自立できた人のイメージがあるが、その中には二つの「じりつ」があり、一つは家族からの、そして経済的な「自立」である。もう一つは「自律」であり、見えないものであり、他人の振る舞いをみて、自分の行動に責任をもつような抽象的判断基準である。
「私は大人?」というのは未完の問いかけであり「人間ができるまで17年か70年かは人によりけり」(小池光)ということだ。人は、社会関係、家族関係、自分関係の中で生きている。大切なのは社会的に有益であること。奪えあえば不足するし、分かちあえば足りるという考え方を大切にしたい。そうすると大人の壁の意味もわかってくるのでないか。 (井上記)
B10月26日「少子高齢社会を幸せに生きる 〜 老後を誰と何処でどのように暮らすか〜」
講師:袖井 孝子氏 お茶の水女子大学名誉教授、シニア社会学会副会長
高齢社会を迎え、自分の老後、終末期までをどのように過ごすか、を考えさせられた講演でした。大家族から核家族となり、高齢者向け施設を利用することも考えなくてはならない、しかし、元気なうちに施設を訪問したり、話を聴いたりして自分のライフスタイルに合っているかなど、経営者の哲学も大切である。また、いじめは子供だけの問題ではなく、年寄りのいじめも決して少なくない。TVなどで見る田舎暮らしは成功例が多いが、地域に溶け込めるか、共同作業などの付き合い、医療設備などの問題も多々ある。移住を希望するのであれば、気力・体力のあるうちに転居が望ましい。介護をするにしても受けるにしても、住まいをリニュアールすることで介護が大幅に楽になる。住居福祉から住居文化へ「住まいは生活の基礎である」。住まいが「住宅双六」といわれた時代は去った。 (武者記)
C11月2日「資生堂のワーク・ライフ・バランスへの取り組み」
講師:山極 清子 (株)資生堂人事部次長、文部科学省中央審議会生涯学習分化会委員
高齢社会における労働人口の減少、世界の女性の出生率と労働力の関係などの社会の動きからスタートして、これまで資生堂が取り組んできたさまざまな施策の紹介があった。女性のための商品が大きな割合を占める企業であること、また、女性の従業員数が全体の8割に達していることから、社員が出産、子育てと仕事のバランスをとりやすくするために1988年のフレックス制度からはじまり、2005年の次世代育成支援計画書にいたるまで詳細な報告があった。 (伊東記)
D 11月9日「老若共同参画社会でのシニアの役目(次世代支援)〜次世代へ残すプラスの遺産とは?〜」
講師:沖藤典子氏 作家、社会保障審議会委員、シニア社会学会理事
信条として、普通に生きている中で考え、問題解決もその生活の中にあると考えている。少子高齢化社会の中で、老若男女が助け合っていける社会をどう作っていけるのか。歴史を振りかえっても多産と重労働がいかに女性を苦しめたか。女性の子宮を管理するような国家にしてはならない。また数あわせで子どもを生ませるような腐った社会にしてはならない。あくまでも人生の幸福から考えることが大切だ。
高齢者が持つ豊かな経験とネットワークを生かすこと。例えば育休の代替え社員に、企業のOBを使うとか、つどいの広場事業のように、子育てにおじじおばばの活力を生かすこと。また全ての子どもは平等の権利を持っているのだから、その実現のため、いま佐賀県が提案をしている育児健康保険のような社会的な土台作りも必要だ。また東京都中央区で行っている、特別養護老人ホームと中学校の合築のように、日常生活でのさりげない老若共同を図る試みも有用だ。 (井上記)
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