JAAS News 第68特集号をお届けします。
シニア社会学会事務局 2005.12.6.
・・・・目次・・・・ 1.福原義春シニア社会学会会長講演会 サクセスフルエイジング 〜美しく年を重ねる〜 2.シニア社会学会シンポジウム 年金:ヤング対シニア〜世代間の連帯は可能か〜 ------------------------------------------------
1.福原義春・シニア社会学会会長講演会
「サクセスフルエイジング〜美しく年を重ねる〜」
11月29日(火)、新しく当学会の会長に就任された福原義春氏(資生堂・名誉会長)の講演会が、多数の聴衆の参加のもと、慶応大学で開催された。以下は、その講演内容の要約である。
◆おしゃれと美しさ 昔から「若さ」と「美しさ」は、ほぼ同義と考えられてきた。技術の進歩によって、皮膚のくすみ、しわ、しみをとって「若さ」をいかに保つか、若返らせるか。一方で、外見の魅力は、内なる魅力を引き出せるのか、その歳なりの美しさで良いのではないかという問題。化粧品会社は、常に、その狭間に悩まされてきた。しかし「本当の美しさ」というものは、内面からにじみ出る、その人なりの人間的な魅力・円熟さというものであると考えるべきである。
◆サクセスフルエイジング 89年以来、「美しく年を重ねる」を合言葉に「サクセスフルエイジング」の運動を社会的に展開している。いたずらに年を重ねるのではなく、「ワインが熟成する
ように人間も年とともに熟成して味わいのある人生をおくってもらいたい」という願いからである。社内で蓄積した素材を本にして出版し、90年からは、第一線の学者・ジャーナリスト・文化人を糾合した国際フォーラムを隔年ごとに開催するなど、心身の健康を具現化するための提案を社会に発信している。
◆高齢化について 東京医科大学の内田安信教授によると、人間の知力と社会で活動する力は、年齢に比較的左右されず、学習によって伸びる可能性があり、東京理科大学の田沼靖一教授は、人間には、記憶力・計算力を司る流動性知能と判断力・発想力・統率力など経験・知識あるいはその蓄積から生まれる結晶性知能があって、30歳頃から流動性知能の低下に代わってこの知能が伸びてゆくとされる。これからの知識社会では、国力即ち知力であって、むしろ高齢者の豊かな経験と知識をいかに有効に活用してゆくかということが大切になる。
ODSの山口峻宏社長は、「依存・未熟・育てられる時期」の1stエイジ、「自立・仕事・養育・貯蓄の時期」の2ndエイジにつづく「達成・完成・充実の時期」のサード・エイジを同名の著書で提唱されている。桜美林大学の柴田博教授は、昨今は、死にいたる「寝たきり」の時期が短縮され、死の直前まで元気に活動している、いわゆる直角死が増加しているという。
現在の高齢者の年齢は、終戦時の同年齢の7掛けであるとは、よく言われていることである。
◆心と体のつながり 精神と体はひとつのつながったものであって、それぞれを別物として扱うのは、近代以降の悪弊である。現代の医学は、人間の体を心身の統一体として診ず、データ偏重で諸器官の集合として見る傾向が強い。家庭内暴力、ひきこもり、不登校、切れやすい若者、これらの諸現象も心身・心と体のアンバランスがもたらしたものである。近年、証明された事例では、「皮膚」ですら脳とつながっているという事実がある。
資生堂が、ハーバード医科大学・マサチューセッツ総合病院と設立した皮膚科学研究所の研究で、人間の皮膚の中の細胞が、外界で起こっていることを検知して脳細胞や内臓に伝える役割をしていることが明らかになった。また、私たちのビューティカウンセラーが参画している老人専門の鳴門山上病院(徳島)では、患者に自由な髪型とお化粧をすることを認めた結果、さまざまな症例の改善が見られた。「かけがえのない自分である」という自尊心が、人間の心身にとって、いかに大切であるかという事例であるといえよう。
◆これからの社会―新たなコミュニティの誕生へ向けて バブル崩壊後の十年を「失われた十年」と呼ぶのは大反対である。むしろ、21世紀型社会への準備を進めた十年であった。お金やモノがあれば幸せであると考えるのは誤りであって、これからは、それぞれ、自分自身の自発性に基づいた自己実現を求める社会となる。しかしながら、社会のみんなが個々に自己実現を追及すれば、社会はバラバラになってしまう。したがって、他者が自己実現しなければ、自分も自己実現できない。自己実現とは相互実現にほかならず、「私的な幸福」の追求も、もともと「公的な幸福」をそのなかに含んだものである。21世紀の幸福追求の原理は、自ら社会の未来を考えて行動する、本来的な意味での現代的な市民がイニシャティブをもった社会を作り上げることである。
◆シニア社会学会の使命について 超高齢社会に向かって、学会であり運動体でもある二つの側面を統一し、知識と知恵を結集した行動するユニークな学会として、理論と実践を通じて「エイジレス社会」の実現を目指し、常にその存在を社会にアピールしてゆかなければならない。 (文責・大島)
2.シニア社会学会シンポジウム
ー年金:ヤング対シニア〜世代間の連帯は可能か〜
10月29日(土)上記シンポジウムが、袖井孝子氏(お茶の水女子大学名誉教授)・望月幸代氏(ミズ総合企画代表)の司会のもと、100名近くの聴衆を集めてお茶の水女子大学で開催された。
基調講演:橋本泰宏氏(厚生労働省年金局年金課企画官) T.昨年(平成16年)の年金制度改正の要点 (1)年金制度の持続可能性の確保
これまでの5年ごとに保険料を見直す方式を改め、最終的な保険料の上限を法律で制定した。(2017年・厚生年金18.3%、国民年金16900円。それぞれ毎年0.354%、280円ずつ引上げる) (2)世代間格差の是正
名目的な年金支給額は一定のまま、賃金・物価の伸び率へのスライド分を調整して、その伸び率を抑える方式を導入(マクロ経済スライド) (3)多様な生き方・働き方への対応
離婚の際の厚生年金の分割、育児休業期間の保険料免除期間の延長、遺族年金の見直し、障害者年金の改善、高齢者の就業と年金など、多様化する生き方・働き方への対応を図った。 U.若い人たちの年金に対する誤解 (1)自分たちは年金をもらえない。
公的年金制度は、事前に積み立てた資金を老後に引出す制度ではなく、現役世代からシニア世代への「仕送り」の社会化である。現役世代が全く存在しなくなるときは、日本社会が崩壊するときである。 (2)自分たちは年金で損をする。
単純な損得計算で考えても、公的年金は、生保などの個人年金などより、はるかに割増しになっている。それは、国庫負担・事業主負担が加算されるからである。 V.世代間の連帯のために (1)学校教育の大切さ
小学校の段階から、父親の払う保険料が、お祖父さんの年金を支えているといった公的年金制度の仕組み、世代間扶養の仕組みを知ってもらうことが大事である。 (2)年金を身近に感じてもらうために
若い世代に年金制度に関心を持ってもらうために、毎年の保険料納付の実績をポイント化して、その時点の年金受給見込み額を明示する方式を平成20年から実施する予定である。 (3)子どもが生まれ育ちやすい社会にするために
現在、正規社員から非正規社員への切替えなど、安定した雇用環境の維持が難しくなっている。若い世代が希望を持って働ける社会をつくることが、公的年金制度安定の一番の基本である。
パネリスト
駒村康平氏(東洋大学教授)
これからは高福祉・低負担、全員が得をする年金改革はありえない。平成16年改正で財政問題は一応解決したかに見られるが、今後、増加する非正規雇用者の問題、年金の一元化の問題は残されている。介護・医療保険との整合性を含めた社会保障全体を横断的にとらえる視点も今後の大きな課題である。
坂本純一氏(野村総合研究所)
平成16年の年金制度改正は、人口・経済環境の変化に適応できる体制をつくる画期的なものであった。世代間の負担・給付の格差の問題は、年金制度に限られたものではない。養育・教育・扶養・遺産・社会経済的インフラ等、きわめて多面的に存在する。これらを全体的にとらえる論議が重要である。
井原誠氏(社会保険労務士)
国民年金の空洞化(未加入者・保険料未納者の増加)、厚生年金の空洞化(未加入事業所・適用漏れ者・保険料滞納事業所の増加)は「国民皆保険」の大テーマを危うくする。国民全体の社会保障に対する知識や考え方のレベルを上げるため、義務教育に「社会保障」の科目を 設けるべきである。
以上の論議に加えて、多数参加した学生を中心とするヤング世代と年金受給者であるシニア世代との間に、年金制度をめぐって活発な議論が展開され、誠に有意義なシンポジウムであった。 (文責・大島) 《編集後記》
今号は、福原会長講演会と年金シンポジウムの特集号といたしました。
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