JAAS News第50号をお届けします。 
                シニア社会学会・事務局:2004.7.30
1.第3回研究発表大会の概要報告(その3)
6月19日(土)の第3回研究発表大会の概要を第49号に引続きご報告します。

□会員による研究・事例発表(以下50音順)
◆石塚 光政氏(文京大学大学院経営学科・土浦市)
「女性の起業と事業活動に関する一考察」
多くの女性経営者の属性に迫ってその全体像から実態を把握することは、これから開業する女性たちに役立つと考え研究を始めた。彼女たちが近年注目されるのは、これまで潜在能力を発揮する機会がなかった女性への期待が高まってきているからだ。現在新規開業の1315%を占める女性経営者は、さまざまな分野で男性と異なる価値観の担い手として活躍している。(その特徴をアンケート調査結果で、開業動機・事業の選定理由・開業資金等の角度から説明)男性経営者と同等なキャリアを積んできた女性経営者は、業績も良く、事業拡大意欲も強い。男性とは異なる視点でこれまでになかった事業展開をしてゆく社会的意義は大きい。

◆佐藤 純子氏(麗澤大学大学院国際経済研究科・流山市)
「高齢社会における企業の高齢者雇用の必然性とその役割および成功要因」
父親が当時の55歳定年で退職し、見る間に元気をなくしていった経験から高齢者雇用を真剣に考えはじめた。元気なうちは「年齢に関係なく」働きたいという人が3割を超えるほどわが国の高齢者は就業意欲が高い。(人材派遣会社へのアンケート調査結果を説明)今後とも高齢社会では少子化による労働力不足だけではなく、高齢者が本来もっている豊富な体験や人脈、仕事の丁寧さを含む高い技能などが「高齢者雇用」を開発してゆく。「高齢者雇用開発コンテスト」での受賞企業の成功要因をみると、高齢者自身の意識改革が重要である。以前に勤めていた企業での体験・意識を払拭すること、さらに若い年齢層の社員と協調する意識などが求められている。

◆高田 佳子氏(桜美林大学 加齢・発達研究所・文京区)
「イベントの社会的意義と高齢社会を元気にするイベントのあり方」
イベントは社会の活性化に役立つ、と考えてこれまで仕事をしてきた。高齢者への興味とイベント・マネジメントへの関心の双方から、桜美林大学大学院社会人コースの一期生にエントリーし、老年学をテーマにした修士論文が今回のお話のベースにある。日本ではこれまで、国体・植樹祭あるいは東京オリンピックや大阪万博といったイベントが、国際人としての自覚を促し、世界へ発信する活性化装置として活用されてきた。それから約40、現在の高齢社会では高齢者の役割が乏しい。高齢者は介護の対象者、もしくは富裕な消費者という貧困なイメージに押し込まれていて、本来のパワーが発揮されていない。イベントを現代の日本を変えてゆく力として活用しなければならない。

◆多胡 光宗氏(ウエルネス医療クリニック・桑名市)
「痴呆性高齢者の残存能力改善計画について」

学童保育と高齢者デイケアの双方に取り組むための施設を合築し、8年以上にわたってお世話をしてきている。お年寄りと子どもたちがただ一緒にいるだけでは駄目で、やはりそこには仕掛けがいる。高齢者のなかには、たとえば野菜づくりが得意とか、いろいろな経験の持ち主がいるので、子どもの教育・しつけに良い影響を与えることができる。悪いことをすると他人の子でも厳しく叱る。叱ると高齢者でも元気が出る。叱るだけでなく、その後を見守る。できると褒める。痴呆になってもこういうことができるのである。あるいは、子どもと遊ぶ、たとえば将棋を指す。シニアと子どもの双方に利点をもたらすには、計画的に交流する、仕掛けをする、それを3ヶ月以上つづけることが有効である。

◆間野 百子氏(東京大学大学院・豊島区)
「高齢者の社会参加活動を促進するプログラム」

 ―米国の世代間プログラムを通じての考察−
この学会が標榜しているエイジレス社会・老若共同参画社会等を具現化してゆく上で、アメリカの「世代間プログラム(以下IPと略す)」は研究面だけではなく実践面でも体系化されて参考になる。IPの定義は論者によって異なるが、1999年に「国際世代間プログラム協会」(ICCP)はIPを「高齢者と青少年の間で互いの能力や知識を意図的・継続的に交換しあう社会的媒体」と定義した。また、この問題の第一人者であるサニー・ニューマンはIPの歴史的展開を、政府主導型で青少年と高齢者の交流プログラムが創出された第1期と、多くの団体が関与してプログラムの内容が多様化してゆく第2期とに分けている。本学会では、高齢者が青少年に積極的なモデルを示す役割を期待したい。

◆山崎 晃氏(東北シニアライフアドバイザー協会・仙台市)
Gerontologyってナニ?」

ジェロントロジーについては、8年まえに南カリフォルニア大学の教授から直接説明を受けて感銘を受けた。ジェロントロジーそのものが、私ども協会のコア的な活動テーマでもある。マリー・テレサはかつて「世界に貧しい国がある。それはアメリカと日本だ」といったことがある。その精神的貧しさを指摘したものだ。今の日本は青少年問題にしても、高齢者福祉にしても、はっきりした目的のない不安定さが蔓延している。これまで、人の働く上での能力は加齢によって落ちないことが実証されており、「長寿社会の人間学」は、私たちに与えられた至上命題だ。私どもの電話相談でも、最近は心の問題の比重が大きくなっており、一般論から個別の問題領域へと変化しつつある。
                   (守永記)

2.研究活動報告とお知らせ
□ユニバーサル・デザイン・スタディ研究会(UDS
7月8日(木)吉田氏ほか4名が参加して開催されました。第2回日経UDシンポジウムの報告(鈴木氏)、ツーカーの骨伝導携帯の性能と売れ行き(野坂氏)、東武船曳駅と京成船曳駅のバリアフリー対応についての定点観測の希望(入沢氏)、国語審議会の第3回外来語言い換えの発表を受けての「UD」に対する考え方(吉田氏)など。8月は休み、次回は、9月9日(木)午後6時30分、六本木「みなとNPOハウス」2階会議室で開催します。
□雇用における年齢差別研究会
8月は休み。9月15日(水)に「企業のエイジレス度測定指標案」の検討を継続します。

3.シニアニュース
「高齢社会をよくする女性の会」(代表・樋口 恵子氏、当学会理事)の全国大会のお知らせです。
 ○基調講演「発展途上の75歳から発信」 講師 なだ いなだ氏
 ○シンポジウム「人生百年 わがまちの実践 私の提案」
  「見えてきた介護保険の光と影」パネリスト 堀田 力(当学会理事)ほか。
  ジョイントコンサート「シニアの声が都に響く」ソプラノ歌手 増山美知子氏ほか。
 9月11日(土)10:00〜17:30 於 新宿文化センター・大ホール                (新宿区新宿6−1−14 п@03-3350-1141
  参加費 会員券・前売券 1,000円 当日券 1,300円 多数ご参加ください。