JAAS News第36号をお届けします。
シニア社会学会・事務局:2003.8.4.
1.第2回研究発表大会の概要報告(その3)
6月21日早稲田大学で開催された第2回研究発表大会の概要を第35号に引き続きご報告します。
(1)研究報告と分科会の概要
□定点観測調査プロジェクトの研究報告と分科会報告
<研究報告> 中西武夫座長所用のため、守永英輔氏が代わって報告した。
定点観測調査では、調査するに当たり調査設計の検討と調査項目の作成を行った。調査設計では、まず、中高年者対象に行われた実際の調査の調査票と調査結果の検討を行った。次に、シニア社会学会らしい調査とは何か、シニア社会学会の研究会がテーマとしていることをこの調査の中に組み入れることについての検討を行った。その結果、「生活意識」「人間関係」「住まい」「介護」「仕事」「経済」「健康」「余暇時間」の8テーマについてプレ調査を行うことにした。
プレ調査は、シニア社会学会会員から調査協力者を100名募り、1回2テーマずつ4回にわたり調査を行う。4回に分けた調査を1つにまとめて分析できるような回答方法とする。6月21日の総会時点では、第1回の調査集計が完了し分科会ではその結果の報告と検討を行う。
<分科会報告> 分科会は、9名の参加のもと守永氏の司会で行われた。
第1回プレ調査「生活意識」「人間関係」の集計結果・分析の報告が行われ、その結果について、あるいは定点観測調査全体について意見交換が行われた。
第1回プレ調査結果の抜粋
老後の生活を意識した(する)のは平均54.62歳。男性では56.23歳。いずれの性・年齢区分においても「幸せ」「やや幸せ」は約9割。現在は、「健康維持のための活動」「学習活動」「趣味活動」への参加が多い。将来は、「健康維持のための活動」「学習活動」「社会福祉活動」に参加を希望する。心配事や悩みを聞いてくれる人、能力や努力を評価してくれる人、一緒に余暇や休日を楽しむ人として男性は「配偶者」を多くあげるが、女性は「その他の友人」をあげる。
意見交換の結果は以下のようにまとめられる。
・地域社会への戻り方を示すような選択肢作成の必要性・少子化の高齢社会への影響を見られるような設問の必要性(人口減の社会で何を考えればよいか)・結果の使い方を意識した設問の必要性
また、後期高齢者への調査については今後考える必要のある課題となるだろうということで終会となった。 以上 (森やす子・記)
□ 望ましいシニア像研究会(座長:濱口晴彦理事・運営委員長)
出席26名(男19名,女7名)
<濱口座長の研究報告>
「望ましいシニア像」をテーマにこれまで7回にわたる研究会を通し、先程も様々な議論が出しつくされたが、ここで私なりにまとめた「望ましいシニア像」を述べさせていただきたい。
人間の顔というものを考えるとき、様々な顔がある。しかし、中には必ずしも顔を必要としないものもある。たとえば、犯罪者のように顔をモザイクで包み隠すもの、また、紳士服売り場にある、ただ服がかけられているマネキンなど、これには顔がない。しかし、顔が無くともその役目は、十分に果たしている。
つまり、「望ましいシニア像」を考える際にも必ずしも顔(どのような顔)は重要なものではないのではないか。
また、望ましいということ考えるとき、大衆から見た、望ましいシニア姿(生き様等)、個人から見た望ましいシニア姿、この中にあるメゾという領域を考えていく時にこそ、真の「望ましいシニア像」が浮かび上がるのではないか。
<分科会における事例発表?>「今後のシニア社会で暦年齢制度は必要か」
本田重道氏(会員)
現在、日本は世界一の少子高齢国となっているが、多くの国がいずれは自国の問題として日本の対応とその結果を見守っているに違いない。現在、我々がすすめようとしている老若共同参画社会はこの中核に当たると思う。
しかし、これと平行して太古からの暦による年齢社会制度、人のDNAにまで入り込んだかの様にその存在すら感じない。それほどまでに素晴らしい制度なのか?この制度、今までの老人比率が少ない時代には社会に受け入れられた。そして、今少子高齢化は人類にとって初めての経験、我々日本はこの問題でリーダーにならざるを得ない。いま、あらためて暦による年齢制度そのものの存在是非から見直す時ではないか。
<分科会における事例発表A>「エイジ・フリーのポリティクスをこえて」
荒井浩道氏(早稲田大学助手 会員)
1980年代後半以降、米国をはじめ新しいエイジング研究が行われるようになってきている。そこでは、「エイジング」を否定的にしか評価しえないこれまでの研究への反省が行われ、「老い方=生き方」の問題として「エイジング」が主題化されている。具体的には、主として比較的健康な「前期高齢者」に注目することから、高齢期においてもなお維持される「活動性」や「生産性」がクローズアップされた。しかし、その反面このように新たに発見された「エイジング」概念は、要介護者等や老い衰え多くの喪失を迎えた老人に対して差別的に機能する。すなわち、比較的身体的に健康な「前期高齢者」においては「老い」に近代的な意味を付与し、われわれが内在化している近代的人間観に適合しうるものへと転化することが可能だとしても、要介護者になる確率の高い「後期高齢期」においては限界がある。「後期高齢期」における「老い」がいかに意味づけられるか。今後益々重要な問題となってくるであろう。
<Q&A>
Q:前期高齢者と後期高齢者に分けることは大切であると思うが、後期高齢者(75歳以上で要介護者は、15〜20%存在する。)についての研究は少ないというが、望ましいシニア像を考える上で、このことをどう考えているか。
A:要介護者としての研究は、数多く存在するが後期高齢者としての研究は皆無に等しい。しかし、要介護者の研究の他に後期高齢者(誰もが経験しなくてはならない道)の生き方などに焦点を当てた研究こそが、望ましいシニア像を作り出すことにつながると考えている。
<濱口座長によるまとめ>
年齢は、安定した速度で進む。もし、年齢が平等に扱われるならこの年齢というものは、合理的に活用できる。Productive Agingという言葉は、現在狭義的に解釈されがちであるが、本来広義的に扱われるべきである。Productive Agingを考える際、無視できないのは、公共福祉と基本的人権の保護であろう。このことに重点をおくことなしには、望ましいシニアを探求することは不可能ではないか。 (村岡昇・記)
2.新刊書紹介
柴田博・長田久雄・編著「老いのこころを知る」(株式会社 ぎょうせい)
当学会の会員であり、先般の学会第2回大会での興味深い記念講演で好評だった桜美林大学大学院・柴田 博教授の最新の共同編著。
「知能・知識は高齢期でも一定年齢まで維持される」「老人は肉を食べるべきだ」。今までの常識をくつがえす最新の研究成果をもとに高齢者の「こころ」をめぐるさまざまな問題に解決の道筋を示す好著である。
人間の身体と精神は、各々の領域での研究が進むにつれて相互に密接に関連していることが分かってきているが、双方を統合的に捉えることは非常に難しくて、その目的にかなった学問的成果はきわめて少ない。一方、高齢者問題では心身の加齢変化を正しく認識することが不可欠である。編者らが所属する桜美林大学では、身体・精神の双方にまたがる健康心理学という学問領域で、多くの専門家が学際的に協力しあって教育・研究を進めている。本書では、高齢者の生活の質を高め、生涯にわたり社会貢献をなしうる高齢者像を確立することを目的に、「こころ」をめぐる問題にさまざまな視点から多彩な執筆者が光を当てている。最後の第4章は、示唆に富む提言集となっている。 (守永英輔・記)
3.新会員紹介
今年、5月以降7月末までに入会された方々です:氏名50音順・在住府県名・敬称略
愛知 和男(東京):有吉 廣介(埼玉):石井 菜穂子(東京):井手 しのぶ(東京):大里 英夫(埼玉):太田 善朗(神奈川):河口 博行(神奈川):鈴木 亜紀子(神奈川):高梨 柚美子(神奈川):田口 まり(東京):塚原 陽子(埼玉):土岐 啓子(東京):山極 完治(東京)
4.訂正とお詫び
JAAS News第34号(7月28日発行)□次世代育成支援研究会・分科会報告の報告者:今井朋美さんは、朋実さんの間違いでした。訂正してお詫び申し上げます。
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