JAAS
News第35号をお届けします。
シニア社会学会・事務局:2003.7.28.
1.第2回研究発表大会の概要報告(その2)
6月21日早稲田大学で開催された第2回研究発表大会の概要を第34号に引き続きご報告します。
(1)研究報告と分科会の概要
□ 多様な働きの場創出研究会の研究報告と分科会報告(座長:菅野正純理事) <研究報告> 報告者 菅野正純氏(労働者協同組合理事長、当学会理事) ◇
研究会の経過
・02年5月研究会の基本的なコンセプトと方法について ・6月同上 ・7月松岡紀雄氏報告「『社会的有用労働に関する研究会報告』について」 ・9月田中羊子氏報告「労働者協同組合・センター事業団の地域福祉事業所活動」
叶内路子氏報告「NPO法人コミュニティ・スクエア21の活動について」・10月センター事業団・深谷地域福祉事業所見学(「豆腐工房」/デイサービス「だんらん」)
・03年1月センター事業団・町田地域福祉事業所見学(高齢者講座「ほっとステーション・さくらハウス」/コミュニティハウス「しなもん」)・3月現場見学の感想と今後の研究会の持ち方について ・4月高橋昌子氏報告「元気高齢者の介護マンパワーとしての活躍に関する考察」 ・5月今井純子氏報告「シニア世代の生き方としての労働」
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研究会を通じて得られた「多様な働きの場創出」の基本視点と内容 (1)新しい働き方を通じた「老若男女参画社会」の追求
シニア社会学会としての「多様な働きの場創出」研究会としては、当然、シニア世代自身の新しい働き方への要求が出発点になる(「もう時間の切り売りはいい」「『会社のため』ではなく生涯全体の豊かさへ」)。あわせて、リストラの対象となっている団塊世代や「層として弱者に転落す
る」若者たち、新たな働く場を求める女性たち、さらにはさまざまなハンディキャップをもつ人びとなど、「次世代」の働き方を支えることが、シニアの強い関心となっている。団塊世代にとっては、60歳以降の受け皿をどうするのかが自身の問題として迫っている。
本研究会のテーマは、新しい働き方を通じた「老若男女参画社会」の追求ということになろう。
(2)「シニア文化」=新しい生き方創造と結ぶ新しい働き方の可能性
「高齢期の文化(の形成)」ということが研究会で言われ、シニアの学びへの欲求の強さが実際の姿で示された(ITや「男の料理教室」)。それらは、新しい生活文化(技術)の習得であると共に、「多様な働きの場」を創出していく基礎でもありうる。
研究会では、とりわけ「ケア」のあり方を通して、シニアと次世代が自らの「生活」をどのように豊かに描くかによって、「多様な働きの場」も広がりうることがうかがえた。「ケア」を単に1対1の身体介護や家事援助にとどめず、コミュニティにおけるその人の生活・人生に対する支援ととらえ、さらに「生活総合産業」へと広げることで、男性も含めた、多様な仕事と参加の場が、実際に広がっている(高齢者ケアと子育ての統合、人生の背景を知る人同士のピアカウンセリング、「デイサービス・センター」から「ディ・アクティビティ・センター」への発想転換、「コミュニティ・レストラン」、介護タクシーから団地の建て替え=「居住福祉」に至るまで)。
(3)「コミュニティ・ビジネス」への公的認知と当研究会の課題
以上の視点に立って、実践的に問われるのは、「多様な働きの場の創出」の具体的な事業・活動領域と、それにふさわしい組織・事業形態である。
当研究会では、座長が仮説的に、「協同労働の協同組合」とNPOを新たな主体に加えた「生活総合産業」=「コミュニティ・ビジネス」を機軸とし、その実践のモデルケースとして「地域福祉事業所」を提起させていただいた。
当研究会での議論に並行して、厚生労働省の「雇用創出企画会議」第一次報告書が5月に発表され、今後の雇用創出の最も有力な分野として、地域の課題を住民自身が事業とする「コミュニティ・ビジネス」があげられ、その担い手として、「NPO、企業組合、(地域密着・中小規模の)会社」と並んで、「労働者協同組合」が官庁文書においては初めて明記された。
「ワーカーズ・コレクティブ」や、数千にも及ぶといわれる「農村女性ワーカーズ」を含めて、「コミュニティ・ビジネス」を共通視点とした、当研究会の第一次「まとめ」が求められているとも言えよう。 以上 (菅野正純・記)
<分科会報告>十分に成熟したわが国の経済社会は「モノの消費」から「ココロの消費」へと向かいつつある。「ココロの消費」とは、全人的な「対人社会サービス」であり、旧来の「低所得性に着目した福祉施策」とは一線を画すものである。いわゆる「市場化」の対象となったり「今後の大きな成長分野」といわれるのは、まさにこの領域なのである。それは人間の生き方そのものに深く拘わるだけに、新しい生き方の創造とそれに伴う新しい働き方が求められる。具体的には、「協同労働の協同組合」とNPOを主体とする生活総合産業であるが、これからの新しい分野だけに行政等による公的認知と政策支援が欠かせない。この意味で、この5月に厚生労働省がコミュニティ・ビジネスの担い手として「NPO、企業組合、株式・有限会社」と並んで「労働者協同組合」を官庁文書に明記した事は、正に新しい一歩を踏み出す歴史的なエポックといえよう。
<分科会における事例発表1)>「シニアへの、シニアのための、シニアによるラジオ放送番組」 副島茂さん(会員)「げんきKOBE」副代表
「兵庫県シニアしごと創造塾」を終了したシニアの有志が「シニアによるシニア向けラジオ番組」を制作・放送している。01年6月からAM神戸・ラジオ関西より毎週日曜日、午前5時代の15分番組。タイトルは「60歳から元気KOBE」。
話題選びから取材・編集まですべて素人のシニア手作りの番組である。これまでの出演者約250名、リスナーからの便りは、約450通に達するという。
<分科会における事例発表2)> 「上杉鷹山の福祉政策等について」
石塚光政さん(会員)茨城県明日の地域づくり委員会委員、文京学院大学大学院経営学研究科
上杉鷹山については、その藩財政改革のみが喧伝されているが、リンカーンより78年も早く「人民の人民のための」精神をもって、人口増加策や種々の福祉政策を実践した事例を紹介。 (大島洋・記)
2.「多様な働きの場創出研究会」例会報告
□第11回例会 7月24日(木)18時〜20時 労働者協同組合連合会会議室 参加9名
●堀池喜一郎氏(シニアSOHO普及サロン・三鷹 代表理事、学会会員)による、日本地域政策学会第2回大会発表(7月6日)レジメ「シニアが地域で楽しくビジネスを!−NPO法人シニアSOHOの活動事例−」「事業型NPOのための、行政との協働の地域インフラつくり」を参考資料にしての報告
1)シニアSOHOの活動状況・目的等の説明
3年を経た活動で、会員数290名、ワーキンググループ数27、2002年度売上げ6,000万円(受注プロジェクト数11)、交流会開催 累計23回 1700名参加会社員OBがITの地域普及の戦力になり、従来からあるIT講座ではない専門性を教えることの特訓を行った。全会員がメーリングリストに入っているので中身は事務的ではあるが、頻繁に行う交流会が大きな役割を果たす。タスク管理などのマネージングはプロジェクト管理としてすべてメーリングリストで公開している。やりたい人がやりたいことを行うプラットホーム型が特徴。
2)シニアSOHOの課題・将来ビジョン現在、小学校15校の総合的学習でのコンピューター学習の管理を行っているが、「コア・コンピテンシー」(核となる強み)を持つ地域ITヘルプデスクやマッチングシステムが課題である。 また、シニアSOHOから独立したグループもあり分離独立を推奨しているが、今後、運営協議会(まとめ役「NPO協働リーグ」)を作っていくこと、マネジメント能力を強化すること等も大きな課題である。最近の問題として、若者や主婦層がただ仕事だけを求めて入会するようになってきたことが指摘された。
3)その他
「主体の必要性と構築」「行政側の具備していたもの、具備していくもの」についての説明の後、ヒューマンサービスの重要性を強調。今後、本研究会でも、ヒューマンサービスはキーワードになるであろう。
●時間の都合上、今回は報告者の発表のみとなったので、本件に関する質問・ディスカッション等は次回の研究会で継続して行うこととした。
次回研究会日程:2003年8月20日(水) 18時〜20時 労働者協同組合連合会4階会議室 (高橋昌子・記)
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