JAAS News第106号をお届けします
シニア社会学会事務局 2008年7月9日
< もくじ > ページ
1.2008年度定時総会報告 1
2.第7回研究発表大会報告「市民活動とシニアの役割」(その1) 1−3
(「基調講演・パネルディスカッションを中心に)
3.研究会開催のご案内 3
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1.2008年度定時総会報告
2008年度定時総会・大会は、6月21日(土)東京・早稲田奉仕園・スコットホールで開催されました。天候にも恵まれ、80名を超える参加者があり、大盛況のうちに終了いたしました。その結果を本号より、3号にわたってご報告いたします。
■袖井孝子会長・開会のご挨拶 午前10時
シニア社会学会は「学会」を名乗ってはいるが、会員の大部分が一般の市民であり、いわゆるアカデミックな学会ではない。しかしながら、アカデミックなベースをもった、理論的な枠組みを支えにしながら、市民の立場で活動してゆく団体である。そこに、今大会のテーマ「市民活動とシニアの役割」がある。また、シニアだけが集まる老人クラブではない。若い世代も積極的に受け入れて、次世代に先行世代として何ができるかを課題として、「老若男女共同参画社会」の実現を目指している。
■2008年度定時総会 午前10時05分〜10時35分
総会議決権者数は、294名、定足数148名に対し、出席者64名、委任状107名、合計171名で総会は成立。大島洋理事の議長のもと、各議案について審議が行われ、都築賢二事務局長から、第1号議案〜第4号議案が説明され、4議案とも満場一致で承認されました。
2.第7回研究発表大会参加報告 午後1時30分〜2時30分
(1)基調講演 「シニア市民活動と研究者への期待」
田中 尚輝氏(当学会理事・長寿社会文化協会常務理事)
○学会は、理論と実践のどちらに、力点を置くのか
たとえば、同じ労農派マルクス経済学者でも、理論の純化に力を注ぐ宇野弘蔵流と実践しない理論など意味がないとする向坂逸郎流がある。この学会は、そのどちらを選ぶのか。
○80年代に日本版AARPを目指したが、時期尚早で、ことごとく失敗した
アメリカのAARPは、会員数3千9百万人。しかし、日本の80年代は高齢化率10%、全国展開の団体は、「高齢者をよくする女性の会」と「長寿社会文化協会」くらいであった。
○高齢者を商売の対象・客体として考える活動は、例外なく失敗する
オレンジ共済をはじめとして、十指に余るプロジェクトがあるが、成功はおぼつかない。利益誘導ではなく、シニアの活躍の場をつくり、マスコミなど世間に認めさせることが肝心。
○98年NPO法ができて、NPOの数は3万4千超となり、時代の変化は隔世の感がある
会員数何十万という大型のOB職域団体などの大同団結を目指しているが(地域創造ネットワークジャパン)階層秩序がしっかりしていて、内部統制が厳しく、簡単ではない。
○学者先生は、初心を忘れず、行政サイドに取り込まれないでほしい
○市民活動の基盤は、制度より地域のコミュニティ形成がしっかりしていること
そのためには、まず、地域社会のなかへ小学校の学区単位くらいの範囲で、いつでも気軽にだれもが集まれる場所をつくること。この「集いの広場」がコミュニティ形成の核になる。
★川村 匡由氏(当学会理事・武蔵野大学大学院教授)の感想
周知のように、田中尚輝氏は長年、NPOなど市民活動の組織化の先頭に立って活躍されている方である。その田中氏は、冒頭、「アカデミックな視点で理論化して時局の問題を整理し、結果は社会が活かすべきである」と主張する宇野弘蔵氏を紹介された。また、この宇野氏と対比させ、「学者は正しいことを発見したらそれを検証するためにも実践すべきである」とする向坂逸郎氏を紹介した。そのうえで、「最近の学者は政府(権力)の誘惑に負けて政策を追認するだけで、学者本来の学問、あるいは政策提言を行うという使命を忘れてしまっているのではないか」と警告した。確かに、田中氏が指摘されるように、学者が政府の各種審議会などの委員に委嘱され、審議を重ねていくうちにいつしか当局に取り込まれ、何ら持論を述べることもなく、提示された政策を追認するだけで、「学者本来の学問、あるいは政策提言を行う」という使命を忘れがちなおそれは十二分にあるのではないか。学者のはしくれとして自戒したい講演であった。
★福元 公子氏(当学会会員)の感想
田中尚輝氏は「理論の果たす役割」について、多くの理論は現実より遅れているのではないか、と指摘されていました。理論構築は過去・現在(未来予測を含めて)の多くの資料と仮説の証明をもってしなくてはなりません。私には、現代の環境変化のスピードはあまりにも速く、現在の事象が瞬く間に過去の取り残されたデータとなっていくような感じがしております。ご指摘のように、最近の厚労省の年金制度に対する迷走振りなどをみましても、私は何か大きな支柱となるもの(理論?人類愛?)が欠けているような気がしております。課題は何か?と、シニア社会学会に対しても役割を問いかけていました。私は、シニア社会学会の会員の皆様に接するたびに「エイジレス」な生き方の実践者、との印象を受けております。そして、日本人特有な村意識のない、自由な発言を許容してくれるシニア社会学会が、1つのエイジレス社会のモデルとなって発展することが課題では、と思いました。
(2)パネルディスカッション「市民活動とシニアの役割」 午後2時30分〜4時
(発言順・敬称略)
大熊 宏子(当学会理事・パワフルエイジング研究会)
・新潟水辺の会で信濃川と阿賀野川を結ぶ、日本一汚い「通船川」のクリーン作戦を実施
・昔の「田船」を板合せの工法で復元。栗の木川のさくら祭りで、飛び入りの船頭で賑う
・昔の信濃川を取り戻すため、イベントとして上流の千曲川に13万匹の鮭の稚魚を放流
杉山 千佳(セレーノ代表取締役・大正大学人間学部講師)
・「子育て支援」の現状は、保育園が主流で、祖父母のいない、父親不在の核家族が中心
・「女性の自立」「社会参加」が喧伝されるなかで、母子家庭状態の育児ママは放置される
・子育て支援事業・養育里親を法的に位置づける児童福祉法改正案が廃案になったのは残念
吉竹 弘行(当学会理事・鹿島建設滑ヨ連事業部担当部長)
・米国研修先での個人主義の体験と学位授与式での「社会への還元」の言葉が活動の原点
・中学・高校のPTA会長、社協の副会長などを体験したが、企業と違う人付き合いに疲れる
・現在は、企業人としてのバックグラウンドでいろんな団体・人間をつないでゆく役割
入山 映 コメンテーター(前笹川平和財団理事長・元立教大学教授)
・市民活動には、公園のゴミ拾いから国への政策提言まで、いくつかの層(layer)がある
・このいくつかの層でのシニアの役割を考える場合、全部を一緒にするのは生産的ではない
・高齢者の能力は活用されていない。高齢者雇用を推進する運動はシニアの勤めである
沖藤 典子 コメンテーター(当学会理事・ノンフィクション作家)
・マックス・ウエーバーの言葉「墓場に入った後のことを考えるなら、未来の世代がどのような暮らしをするかではなく、どのような人間であるかでなければならない」に共感
・男性のシニアは、周りの女性との付き合いが肝心。それには「ヨンさま」流の笑顔が一番
袖井 孝子 コーディネーター(当学会会長・お茶の水女子大学名誉教授)
・男も女も「暇つぶしの活動」から成長して、「シンクタンク的な動き」もできるようになる・企業リタイア男性の組織運営能力は、当学会の事務局運営で瞠目した。女性とは大分違う
・「違う動物」とも言われる女性と男性の協力・融合で、これからの市民活動は円滑に進む
★富田 孝好氏(当学会理事・日本労働者協同組合連合会センター事業団常務理事)の感想
パネルディスカッションは、大会当日の締めくくりの企画として開催されました。パネリスト3名、コメンテーター2名、コーディネーター1名の構成で運営されました。冒頭、コーディネーターである袖井孝子会長からシニア社会学会のめざすもの、そしてそれを原点としつつ、テーマにこめられているものは市民の主体的参加とシニアの多世代交流をめざすというところにあるのではないかという提起を受け始まりました。この後、パネリストから報告・発言が行われました。大熊宏子さん(パワフル・エイジング研究会・学会理事)からは、地元新潟での通船川をきれいする取り組み、サケの稚魚の放流、それに関連するさまざまなイベントの企画・開催で多くの市民参加と「高齢者は地域の生きた図書館である」とも言える役割をシニアが発揮している実践が報告されました。杉山千佳さん(セレーノ代表取締役、大正大学人間学部講師)からは、子育ての取り組みから4つ葉プロジェクトの立ち上げと、少子高齢化対策に関わる視点から報告がありました。吉竹弘行さん(鹿島建設株式会社・学会理事)からは、現役サラリーマン世代として地域でのPTAの活動体験、あるいは仕事を通じたネットワークづくり、そしてこれからは現役から社会的な役割もって働くことの大事さが語られました。コメンテーターの入山映(前笹川平和財団理事長)さんから、市民活動はひとくくりにはできないこと、今後の課題としてシニアの働く(就労)場をどう創造していくかも重要と指摘されました。また、沖藤典子(ノンフィクシヨン作家・学会理事)さんからは、多様性があることで市民活動はいきいきとします。男女共同参画社会をめざし男性シニアに期待することがユーモアをまじえて語られました。最後に、袖井会長がまとめを行いパネルディスッカシヨンは終了しました。
3.研究会開催のご案内
■第3回濱口研究会
日 時 7月18日(金)17時〜19時
場 所 早稲田大学高田牧舎2階人総研会議室
テーマ 濱口座長の著者「生きがいさがし」のレジュメによる講義と語り合い(第3講)
レジュメは当日配布(200円)されます。多数の方の参加をお待ちしています。お問い合わせ等は、事務局島村まで。
■雇用における年齢差別研究会(7月度研究会開催のご連絡)
日 時:7月28日(月)18:30〜20:30
会 場:慶應義塾大学三田校舎研究室棟4階446会議室(共同研究室A)
テーマ:「団塊世代を中心としたコミュニティ・ビジネスのあり方と課題」
講 師:堀池 喜一郎氏(NPO法人シニアSOHO三鷹・顧問、当学会理事)
参加申込期日:7月22日(火) 多数の方の参加をお待ちしています。
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